自動車業界の競争の型とIT業界の競争の型は大きく異なります。自動車業界は製品サイクルが4年程度と長く、「安全で」「快適な」きちんと作ったうえで販売します。一方、IT業界は次々に新しい商品が生まれ、その商品もいったん投入してから随時改良していくスタイルです。ただ後程触れますが、多くの業界の競争環境がIT業界の大きな流れを受けて変容してきています。
その競争の型に応じて、当然ながら打ち手も変わってくるはずです。競争環境を類型化した人がいます(正確にはいくつかの経営理論を区分しています)。それはRBV理論を提唱した米経営学者のバーニーです。バーニーは1986年の”Types of Competition and Theory of Strategy"という論文で、競争環境を大きく3つに分類しました。また2012年には”
以下では、それぞれの競争環境の類型とその対策について触れていきましょう。
目次
①IO型の競争環境(ポーター型、参入障壁や差別化で競争を避けることが有効)
一つ目は業界構造が比較的安定している、あるいは新規参入しないよう安定させている(参入障壁が高い)競争環境です。産業組織論(Industrial Organization)が想定している競争環境もこの型になり、IO型と呼ばれます。こうした競争環境は、著名な経営学者のポーターが想定していて、私はポーター型と呼んでいます。こうした競争環境で勝ち残るには、いかに業界としての参入障壁を築くか、また差別化をするかが大きなポイントになります。
わかりやすいのは石油・電力などの規制業界で、規制が緩和されない限り安定的な収益が期待できます。また、航空機製造業界も、ボーイング・エアバスが寡占しています。これは規制もありますが、投資コストの大きさに加え、各国とのネットワーク構築が実質的な参入障壁になっています。
要は戦略的に参入障壁を作ってしまい、その中で寡占的なビジネスを行っていくのがIO型の競争環境における成功パターンになります。ポーターはIO型の世界観のなかでいかに差別化を図っていくかが重要としています。
ポーター型の戦略構築の仕方については、「ファイブ・フォースを有効活用するには?」「ポーターの競争戦略の効用と限界」でふれていますのでご参考にしてみて下さい。
②チェンバレン型の競争環境(バーニー型、リソースの組みあわせで差別化を図る)
2つ目は米経済学者のチェンバレンが提示した、独占的競争モデルに基づいた競争環境です。この競争環境では、製品・サービスが差別化されていますが、参入障壁があるわけではありません。
こうした競争環境では、参入障壁があるわけではないので、企業が自らのリソースをいかに有効活用して差別化を図り、競争に勝つかが重要になってきます。著名な経営学者のバーニーがこのような競争環境や差別化戦略を想定していて、私はバーニー型と呼んでいます。
リソースの有効活用の方向性は2つあり、①いいリソースを集める(技術、人材、ブランドなど)ことと、②リソースを組み合わせることで他社が簡単にまねできない仕組みを作ることです。
この型の成功事例は実は日本は非常に多いです。自動車メーカーのトヨタはその際たるもので、ケイレツやカイゼンという取り組みで真似をできない仕組みを作り上げました。また、運送最大手のヤマト運輸も、独自の物流網の構築を進めることで、他社ではまねできない「短期化」「効率化」「サービス提供」を実現しています。
バーニー型の戦略構築の仕方については、「リソースの組み合わせで企業の差別化を図る」でご紹介していますのでご参照ください。
③シュンペーター型の競争環境(試行錯誤して、環境変化に柔軟に対応する)
3つ目はイノベーションの父とも呼ばれるシュンペーター型の競争環境です。シュンペーター型とは何かというと、将来の不確実性が高く、予測がしにくい環境を意味しています。
将来予測がある程度建てられるのであれば、①ポーター型のようにその将来予測を踏まえて参入障壁を築くなり、②バーニー型のようにリソースの有効活用を将来期待される市場に投下していくことが可能です。ただし、先行き不透明感が強い(市場がどうなるか読めない、競争環境もわからない)世界の場合、予測は難しいです。
IT業界がその際たるものですが、その中での戦略は「試行錯誤して、環境変化に柔軟に対応していく戦略」が求められるわけです。これはまさにイノベーションが差別化の最も有効な戦略になるわけで、だからこそシュンペーター型の競争環境ということが重要になってきます。
不透明感が高まり、業界の垣根も崩れていくなかで、どの産業もシュンペーター型に寄っていく可能性
以上のように、競争環境には3つの型があり、それぞれ企業が収益を上げる戦略も異なります。
①ポーター型のようにその将来予測を踏まえて参入障壁を築くのか、②バーニー型のようにリソースの有効活用を将来期待される市場に投下していくのか、③シュンペーター型のように、将来が予測できない中で試行錯誤と柔軟な環境への対応をしていくのかです。
足元では業界の垣根を超えた動きがどの産業でも見られ、先行きが見通しずらい状況にはなっています。その観点ではどの産業においてもシュンペーター型の競争環境になり、打ち手もイノベーション型の戦略が指向される方向に動いてくる可能性が高まっています。
ただし、もちろん①ポーター型の参入障壁の構築、②バーニー型のリソース活用もまだまだ有効です。例えばIT業界でよく名前が出てくるGAFA(google、apple、facebook、amazon)も基本は③シュンペーター型の戦略ですが、一旦寡占化が進んだ後は参入障壁を作る、あるいはリソースの組み合わせで真似ができない仕組みを作ることで差別化を図っています(プラットフォームという表現をMBAなどではします)。各々の業界、競争相手を見ながら、状況を踏まえた戦略構築をしていくことが重要です。
なお、近年の経営学の研究成果については、早稲田大学教授の入山章栄「世界標準の経営理論」がたいへんよくまとっており、以下の内容も同書籍からその多くを参照しています。関心のある方はぜひご一読ください(820pageもある厚い本なので、電子書籍がおススメです)。