企業が持続可能な競争優位を築くにはどうしたらよいか?これは企業の永遠の課題です。その解として、経営学の世界でポーターの競争戦略と並び評されるのが、米経営学者のバーニーのRBV(リソースベーストビュ―)理論です。
リソース・ベースト・ビュ―というのは名前の通り、企業が保有するリソース(人材・技術)をベースにした見方(ビュー)で、有用なリソースを独占しているかが競争の成否を分けるという考え方です。当たり前といえば当たり前なのですが、その背景や経営学での議論を知ることで、有効な活用が可能になります。以下では経営学での議論を踏まえ、どのように実務で活用していくかを紹介していきましょう。
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目次
価値があり、希少なリソースをいかに確保するか
経営学をかじったことがある人はバーニーのRBVというのは聞いたことがあるかもしれません。ただ最初に経営学で問題提起をしたのは、米MITのワーナーフェルト教授が1984年に出した”A Resource-Based View of the firm"という論文です。
ポーターの競争戦略では、産業あるいは企業の参入障壁が収益性に影響するというものでしたが、ワーナーフェルトの主張は、企業がリソースを独占することでも同様に収益性を高めることができるというものです。
さらに欧州のディエリックス&クールは1986年の論文で「リソース1つ1つの価値よりも、その組み合わせの重要性」を語っています。そこでは組み合わせによって3つの観点で他社は模倣が困難になり、競争優位に立てるというものです。
1点目は「ヒストリカルな独自性」です。時間をかけて組み合わせて蓄積したリソースは模倣が難しいというものです。2点目は「あいまいな因果」というもので、様々なリソースになるほど、どの要素がそろえば生み出せるのかが見えにくくなり、模倣が難しいというものです。3点目は「社会的な複雑性」で、2点目と近いですが、社員、文化、顧客、サービスなどが複雑に絡み合うほど、他社が模倣しにくくなるというものです。
ワーナーフェルトなどの主張をベースにバーナーが1991年に公表した”Firm Resources and Sustained Competitive Advantage"という論文です。その主張は、競争優位を持続的に図れる企業というのは、4つの要素があるという主張です。まず競争優位を図るためには企業が①価値があり、かつ②希少なリソースをいかに持っているかということです。また持続性的な競争優位を実現するには、③模倣困難で、④代替困難が難しいリソースを持っているかです。
ただ、上記には前提条件があり、企業の経営資源にはそれぞれ違いがあり、かつ企業の経営資源は企業間の移動しないというものです。
RBV理論だけではすべてを説明できない
このように、バーニーのRBV理論はリソースが企業の競争優位を決めるという点で非常に明快ではあるのですが、課題もすでに指摘されています。
RBV理論が現実の世界で正しいのかというと必ずしも説明できないようです。米経営学者のニューバートが2007年に出した論文では、過去の論文では5割強ではRBVが成り立つとする一方、5割弱は実証されないということを整理しています。その観点では、RBVだけではすべてを説明することは難しいということになります。
またRBV理論には批判も多く、①そもそもリソースに価値があり希少なら競争優位なのは当たり前ではないか、②リソースが価値をどのように生むのかはRBV理論では説明できないなどの批判があります。ただし、RBV理論がそれでも非常に評価が高く、引用されるのはやはりリソースが企業の競争力を規定する型ではないかと思います。
リソースをいかに組み合わせて価値を高めるか~トヨタに学ぶ~
RBV理論を初めて聞いた人の多くの反応は「その通りだ!」けど、「どうしたらよいのか?」です。この点がポーターの競争戦略論と異なり、実務レベルで相対的に話題にならない(活用されない)背景にあるのではないかと思います。
その観点ではRBV理論への批判にもあった通り、リソースをどう組み合わせるかが適切かということが重要だろう。実はその観点では成功した日本企業の多くはこのビジネスモデルを実現してきたと思います。
例えば、トヨタがその代表例でしょう。トヨタをはじめとする日本企業は最初はGMやFordなどの米国企業の模倣から始まったわけですが、RBVにおける③模倣困難性を実現してきたわけです。
トヨタの強みは何かといえば「安全性」という価値と「効率性」というコストを追求したことにあります。もともと自動車が爆発的に普及したのは米Fordがライン生産方式を生み出したことでした。ただこの方式の弱みはまさに③模倣がしやすかったことにあります。
トヨタはライン生産方式をより良くするために、カイゼンとケイレツを最大限活用しました。カイゼンは工場内での各工程それぞれの持ち場で安全性や効率性の観点でより良い方法を見つけ出すというものです。またケイレツは部品会社と役割分担をすることで、商品製造・開発・設計を効率化することができたわけです。
トヨタが意識して取り組んだかどうかは別にして、このカイゼンとケイレツという2つの要素は、③模倣困難性を実現し、ほかの企業が盗もうとしてもなかなか実現できない、まさにトヨタの強みになりました。
このようにRBV戦略を実現している成功企業は日本では非常に多いです。ただ、その③模倣困難性があるがゆえに、フレームワークにはなりにくい面があります。
ではどうしたらよいかというと、ポイントが一つあります。それは、企業の現在有している外部環境や手元のリソースから、オペレーションを最適化する仕組みを考えるという事です。
トヨタ自動車は米国と比べ後発であり、自動車事業を始めた当初は必ずしもリソースが多かったわけではありません。ただ既存の特徴を生かし、カイゼン・ケイレツを深化したことが、持続的な競争優位につながったわけです。
その観点で、「自らのリソースと特徴」をRBVの4つの要素(①価値があり、②希少なリソース、③模倣困難、④代替困難)の観点で見てみることがスタートになるかと思います。
なお、近年の経営学の研究成果については、早稲田大学教授の入山章栄「世界標準の経営理論」がたいへんよくまとっており、以下の内容も同書籍からその多くを参照しています。関心のある方はぜひご一読ください。